Fragrances from Hong Kong
ある一日を、香りに。

2017年に香港で誕生したONE DAY(ワンデイ)。代名詞のお茶のシリーズ「TEA EXCLUSIVE」は、烏龍やジャスミンといった中国茶の繊細な渋みと甘みをボトルへ写し取り、まるで飲むように香りを味わわせてくれます。もう一つの「ETHOS OF CITIES」は、都市の文化や食の記憶を香りに再現。日常のあらゆる情景を香水へと昇華させたブランドです。
ブランドを立ち上げたのは、香港で生まれ育ったマイケル・ワン氏。もともとは出版業界に身を置いていましたが、旅行で訪れたソウルの香水ショップで、一人の調香師と出会います。フランス・グラースの調香研究所(GIP)やISIPCAで研鑽を積んだ女性でした。彼女の香りに対する姿勢と、その人柄に感銘を受けたマイケル氏は、脱サラして師事を決意。1年間のマンツーマン指導のもと、調香の技術を身につけていきます。
マイケル・ワン氏
そんなマイケル氏とブランドが世界的に知られるきっかけとなったのは2022年のこと。「ONE DAY ― OOLONG TEA」が、香水界のアカデミー賞と称される「Art and Olfaction Awards」のArtisan部門にて最優秀賞を受賞しました。さらに2024年には「ONE DAY ― TAIPEI」、2025年には別ブランドの「EPICHRON ― TWIN PEAKS」で同賞のファイナリストに選出されています。
そんな世界的な評価を受け、今や世界中から注目を集めるブランドとなったONE DAY。しかし、その香りが生み出される舞台は、決して大規模な工場ではありません。
ラボを構えるのは、香港・九龍地区の新蒲崗(サン・ポー・コン)。かつて工場街だったこの街は、いまや若手クリエイターの工房が集まるサブカルチャーの発信地へと変貌を遂げている場所。様々な工房やオフィスが入り組むビルの18階までエレベーターで上がり、白い壁沿いに進むと"ONE DAY”の控えめなサインがあらわれます。
様々な香料が並ぶ九龍のラボ
扉を開けた先に広がるのは、一面真っ白な空間。香料の結晶化を防ぐために厳密に温度管理された室内には、実験室を思わせるサニタリールームが併設されています。整然と並ぶ香料、調合した液体をボトルに充填する機械、そしていくつもの精密なスケール。世界各国から舞い込むオーダーに応えながら、僅かな合間を縫って試作を重ね、新しい香りの構想を練る日々がここにあります。
マイケル氏によるボトリングはすべて手作業で行われており、繁忙期には深夜遅くまでその作業が及ぶことも少なくありません。その傍らでは、妻のステラさんがミリ単位のズレも許されない厳格なクオリティコントロールのもと、ボトルにエンボス加工のメインラベルを一枚一枚、慎重に貼っていきます。
張り詰めた空気の中、一切の手抜きを許さない緊張感漂う作業。華々しい受賞歴の裏側にあるのは、夫婦2人の手によって支えられる妥協なきこだわりです。「ONE DAY」の実体は、彼らのものづくりへの熱意が静かに息づく、手作りの小さな工房なのです。
先述の通り、ステラさんの手によって一枚一枚貼られるボトルラベルには、文字がエンボス加工されているのみで、極限まで色が削ぎ落とされています。ONE DAYのプロダクトは、キャップやラベル、外箱に至るまで、すべてオフホワイトで統一されているのが特徴です。
オフホワイトのボトルとパッケージ
この徹底されたミニマリズムには、二つの明確な理由があります。
ひとつは、白が持つ「タイムレス(普遍性)」という特質です。流行の色をまとえばいつかは古びてしまいますが、白はいつの時代も白のままであり続けます。生み出される香りにも、時代を超えて愛される存在であってほしいという願いが、この色に込められています。
もうひとつは、視覚がもたらす先入観を減らし、純粋な感覚を呼び覚ますためです。人は日常の中で、目にした色彩やイラストから無意識に香りの印象を固定化させてしまいがちです。しかし、香りの本質的な面白さは、同じ匂いであっても受け手の経験や記憶によって感じ方が異なるところにあります。
視覚的な情報をあえて削ぎ落とすことで、受け手は香りそのもの、そしてその背後にある物語に深く集中できるようになります。ONE DAYにおける「白」とは、決して単なる無ではなく、受け取る人が自らの五感で香りを味わうために残された、豊かな「余白」なのです。
視覚を遮断した「白の余白」の中で広がるONE DAYの香りは、大きく二つの世界に分かれています。お茶のライン「TEA EXCLUSIVE」と、都市の文化を映した「ETHOS OF CITIES(EOC)」。どちらのコレクションも、マイケル氏自身の記憶から豊かに編み出されたものです。
茶館の情景
お茶のラインは、彼のアイデンティティそのものと言えます。マイケル氏の祖父は、彼が幼い頃から、食後や日中の合間に淹れたお茶を家族に振る舞う人でした。子どもの頃から自然とさまざまなお茶に親しみ、大人になってからは、地元でも旅先でも自ら茶館を訪ねるようになります。
例えばウーロン・ティーは、台北の青田茶館での静かな記憶を記録したものです。お茶には苦みや甘み、果実や花のような固有の香りがあり、それ自体がすでに完結した面白さを持っています。だからこそ彼は、既成の香料に頼るだけでなく、理想の香りを求めて独自の香料も追求します。プーアル・ティーでは台湾の香料会社に特注し、本物のプーアル茶葉から「超臨界CO2抽出法」で精製したオリジナル香料を使用。お茶が持つ深い渋みと土の香りをそのままボトルへと閉じ込めました。
一方、EOCシリーズは、その名の通り「都市の精神」を香りに昇華させています。それは、その土地が育んだ文化や暮らし、そして生活のリズムそのものです。なかでもマイケル氏が着目するのが、その土地の「食」や「名物」です。 街の雰囲気や風景もさることながら、最も多くの共感を呼ぶのはその土地の食べ物や料理、名物であるという考えに基づいています。台湾のタロイモと豆乳、タイのライムソーダとハーブ。一見平凡に見える食卓の記憶こそが、その土地を象徴する要素になります。
ONE DAYは、お茶しかり、料理しかり、我々が日常で何気なく嗅いだり、味わうものを鮮やかに切り取り、香水へと昇華させているのです。
マイケル氏は、ONE DAYの香りを「モダンで、心地よく、肩の力が抜けている」と言い表します。そして、展開される作品の7割以上に、一本の背骨のように通されている特別な香料があります。それが「ベチバー」です。
香料となる前のベチバーの根
彼の調香レシピ(フォーミュラ)において、ベチバーはまさに「見えないDNA」のような存在として機能しています。
イネ科の植物の根から採れるベチバーは、土のように深く、少し湿り気のある落ち着いた香りが特徴です。同じベチバーでも産地によって表情が大きく変わり、ONE DAYでは主に3つの産地が巧みに使い分けられています。
・Bourbon(ブルボン):フランス領レユニオン島産。スモーキーさが最も少なく、ウッディで土に近い静かな深み。
・Indonesia(インドネシア):最もスモーキーで、タールのような焦げた気配を潜ませたい時に使用。
・Haiti(ハイチ):バランスの取れた2つの中間的な表情。
産地は多々あれど、古来より稲作に携わっていた我々アジア人にとって、どことなく郷愁を覚える香り、ベチバー。表には出ないが、確かにそこにある。ONE DAYのどの香りをまとっても、最後に足元へ静かに残るこの土の香りが、14の香りを一つの家族に束ねています。
ONE DAYの香りは、単体はもちろん、レイヤリング(重ね付け)でも魅力を発揮します。マイケル氏おすすめの3つの組み合わせをご紹介します。
01 | OOLONG TEA x BERLIN
ウーロン・ティー(左)とベルリン(右)
まずはベースにベルリンを2プッシュ、その上からウーロン・ティーを1プッシュ。ベルリンのトップに立つベチバーを烏龍がやわらかく抑え、ベルリンのミドルのローズと烏龍が溶け合います。土と花とお茶が、意外なほど馴染む一杯になります。
02 | JEJU x JASMINE TEA
チェジュ(左)とジャスミン・ティー(右)
比率で表情が変わります。チェジュを3プッシュ、ジャスミン・ティーを1プッシュにすれば、柚子の柑橘が前に出ます。1:1にすれば、今度はジャスミンが際立つ。同じ二本でも、量を変えるだけで、まったく違う香りが立ち上がります。
03 | THAILAND x THAI SODA
タイ(左)とタイ・ソーダ(右)
もともとひとつの香水として作られたストーリーを持つ2本。1:1で重ねることで、分かれていた香りが本来の姿へと溶け合います。
ONE DAYの14種類のフレグランスには、それぞれ異なるテーマや情景が込められています。花や果実の名前から広がる、作り手のこだわりの世界観を各商品ページでぜひご覧ください。
まずは1mLから試せます。
今後発売予定の新作二作に乞うご期待。