EPICHRON
not a day, not the night
EPICHRON
 

What time is it?

25:01

夕暮れと夜明けの先、日々が円を描いて巡る。
時間が一本の直線となり、走り抜ける場所にあるものとは……?

時計の針を止め、カレンダーをめくるのをやめ、「25:01」の世界へ。

そこは昼でもなければ、夜でもない。
あなたの頭の中で、拡張された時間と空間。
博物館のガラスケースの中の、懐かしい香り漂う場所。

Off-record. Off-limits. Timeless.

頭の中でこだまする、洗練された美しい旋律。


EPICHRON

エピクロンは、2024年に香港で誕生した、調香のあり方を問い直す、モダンで実験的なフレグランスブランド。常識にとらわれない調香師たちを迎え、大胆な発想と創造の自由がぶつかり合う場所。一つ一つの香りと共に、日常の「外側」を旅する扉。


TWIN PEAKSMichael Wong
 
EPICHRON

TWIN PEAKS

 

EPICHRONの第一作を手がけたのは、ブランドディレクターであり調香師のマイケル・ワン氏。題材は、二つの山です。中国・武夷山(ブイサン)と、インド・ヒマラヤ。この遠く離れた二つの峰を、紅茶の歴史を通して結び、対比させた一本です。

物語の始まりは、武夷山のふもと、桐木(トンムー)。17世紀、明から清へと移り変わる動乱の時代のことでした。村に軍隊が駐屯し、茶葉を摘んだ農家は、本来の製茶の時機を逃してしまいます。軍が去ったのち、遅れを取り戻そうと、大量の松を焚いて茶葉を一気に燻し乾かしたそう。その偶然が、世界で初めての紅茶、ラプサンスーチョン(正山小種)を生みました。松脂の煙をまとった、独特のスモーキーな一杯です。

それから二百年。1848年、東インド会社に雇われた植物学者ロバート・フォーチュンが、中国の奥地から茶の苗木と製法をひそかに持ち出します。中国依存を脱し、茶を自国の産業にするための、いわば産業スパイでした。武夷山から運ばれた中国種の苗は、緯度も標高も近いヒマラヤのダージリンへ。冷涼な高地に適したその苗は根づき、やがてダージリンティーとして新たな生を得ます。一方、低地のアッサムにはもともと自生していたアッサム種があり、そちらはアッサムティーとして花開きました。同じ「茶」という起源から、土地が運命を分けたのです。

同じ種を、二つの峰へ。並んで育ち、やがて別々の名を得た双子 - TWIN PEAKS。この香りは、その分かれ道を辿る一本です。

 

香りは、トップのベルガモットの爽やかな酸味と、ミドルのブラックティーが、まず香り高い紅茶の気配で掴みます。ラプサン茶葉やハニー、ローズアブソリュートが、ラプサンスーチョンの持つ穀物のような甘みと深みを描き、ベースのアトラスシダーとハイチ産ベチバーが、乾いた茶葉と松煙の、あの独特のスモーキーさを忠実に立ち上げます。

マイケル氏にとって五本目となるお茶の香水は、スモーキーでありながら、軽やか。賦香率32%のエクストレ・ド・パルファンで、持続力がありながら、つけ過ぎても重くならない。秋から冬に纏いたい一本です。

 

NIGHTCHILDMichael Nordstrand
 
EPICHRON

NIGHTCHILD

 

本作を手がけたのは、米国を拠点とする調香師マイケル・ノードストランド氏。自身のアトリエ『Mythologist Studio(マイソロジスト・スタジオ)』を主宰し、名だたるメゾンの香りを影で数多く手がけました。グラースの調香研究所やISIPCAで学び、さらにコーネル大学で中世の芳香植物を修めた経歴を持ち、美術館のために古代の香りを再現するなど、歴史と科学を香りに編み込む作風で知られています。

ノードストランド氏がNIGHTCHILDで描いたのは、深い夜の森。菊花やラベンダーのひんやりとした空気に始まり、フランキンセンスやロックローズといった樹脂、そしてアンバーの温かみに包まれていく。それは、太古の森で人類が初めて火を目にしたときのような、原始の神聖さ。冷気の満ちる暗い森を、闇への恐れと闘いながら、ひとりの少女が彷徨う。そんな情景が立ち上がります。

ベースのチャイニーズシダーやカデ(杜松)が、森に降り積もった落ち葉と土の匂いを、足元から水蒸気のように立ちのぼらせます。夜の森に潜む、名もなき物質のような香料の重なりは、イギリスの作家フィリップ・プルマンの三部作『ライラの冒険』(原題:His Dark Materials)の世界を思わせます。

纏うなら、早朝や深夜。静けさの中でこそ、この森は深く香ります。11月から、暖かくなる季節までがベストの一本です。

    

2026 Art and Olfaction Awards Honorable Mention 受賞作品

 

POUDRENathalie Feisthauer
 
EPICHRON

POUDRE

 

POUDREを手がけたのは、フランスを代表する調香師の一人、ナタリー・フェイストハウアー氏。Hermès「Eau des Merveilles」(ラルフ・シュヴィーガーとの共作)、Cartier、Etat Libre d'Orange、Zoologistなど、コマーシャルからニッチまで、枚挙にいとまがない。40年以上のキャリアを持つ彼女にとっても、香港のブランドとの仕事は、これが初めてだといいます。

ブランド名EPICHRONは、古代ギリシャ語のEPI(〜の上に)とCHRON(時間)から成り、「時を越える」という意味を宿した造語です。そして、ナタリー氏がPOUDREのために選んだ舞台は、近未来。ナノテクノロジーによって、人格の付け替えが可能になった時代です。好きな人格を香水として纏えば、元の人格を上書きできる。POUDREとは、そんな世界に存在する、一つの人格名です。それは、非の打ちどころのない、今でいうAIのように完璧で、どこか無機質なペルソナ。

香りは、作品名の通り。POUDREはフランス語で、粉、おしろい、化粧を指す女性名詞。吹きつけた瞬間、トップにふんだんに使われたオリスバターが、白粉のやわらかな香りを立ちのぼらせ、ベルガモットの柑橘が爽やかな酸味を添えると同時に、アルデヒドとカルダモンが、ひんやりと無機質なメタリックな気配をのぞかせます。

ミドルからは、処方に記された「体温を感じさせない、冷たい殻」そのものへ。ヘリオトロープの甘さを極限まで削ぎ落とし、シダーウッドの乾いた木肌、パチュリやインセンスの墨のような静けさと混ぜ合わせることで、冷たく、どこか憂鬱で、人工的でミステリアスなヘリオトロープが立ち上がります。朝いちばんから、背筋の伸びるような気分にさせてくれる一本です。賦香率25%のエクストレなので、夕方までは優に香り続けます。もし、まだ別の人格でいたいなら、ぜひ付け直しを。

 

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